B:残忍なる誘拐犯 オゼルム
「オゼルム」は、鎌のように鋭利なクチバシを持つ怪鳥さ。
翼が未発達なため飛行はできないが、驚異的な脚力による跳躍は、岩山を一蹴りで飛び越えるほどだとか。
獰猛で肉食を好むオゼルムは、辺境地帯に住むアナンタ族やメ族のミコッテにとって、大きな脅威となっているようだ。
事実、数年前にピーリングストーンズにて、メ族の子どもが、次々と行方不明になる事件が起こっている。
その容疑者の筆頭格が、オゼルムということだ。
~クラン・セントリオの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
基本的な知識として、ミコッテムーンキーパーは人の長く社会を拒絶して森に暮らし、夜の森で狩りをして生活していた。夜目が利く真ん丸で大きな瞳孔はその名残だし、捕えた獲物を原始的な調理で食べていた名残がひときわ大きい牙のような犬歯、いわゆる肉切歯として残っている。
真ん丸瞳の夜行性のミコッテは「月の守護者」との意味を込めてムーンキーパーと呼ばれるようになった。逆に早くから人の社会に馴染み昼型の生活を送るようになった縦長瞳の猫目ミコッテは「太陽を追う者」という意味を込めてサンシーカーと呼ばれるようになった。
だから荒涼とした山岳地帯のギラバニア辺境地帯にあたしと同じムーンキーパーの集落があることには驚いた。メ族を名乗る彼らがどのようなルーツをもつのかまでは分からないけれど、恐らくは世界的大洪水に見舞われた第六霊災時に他の民族と共に山岳地帯に移住してきたのだろう。人の社会に溶け込まず独自の文化に従い、独自の集落を築いて暮らしている辺りは森に住もうが山に住もうがムーンキーパーに共通した性質なのかもしれない。
そのムーンキーパーの集落「ピーリングストーン」は高い岩山の外周に螺旋状のスロープを造り、岩山の中腹部分の北向きの斜面を削って平場にして集落をつくっている。高い位置にあるため見晴らしがよく、元ガレマール帝国軍の関所であったカステッルム・ベロジナが架かる深い渓谷やその先に連らなる山々、その向こうに霞むカストルム・オリエンスやバエサルの長城まで見渡せる。
スロープの入り口がある南側は岩山の裏になり見えないが、更に連なるように高い岩山がそそり立っているため、お互いの山が目隠しとなってうまい具合に周囲からは死角になっている。
スロープの入り口付近は低い位置で平らになっているためピーリングストーンに暮らす子供達の遊び場になっているらしく谷中に楽し気な笑い声やはしゃぐ声が反響して聞こえてくる。
町とも村とも呼べないような集落だったが、あたしが同族だから親しみを感じた面もあるのだろう、エーテライト広場にあるベンチにわらわらと人が集まり、飲み物や食べ物が次々運ばれてきて、ちょっとした宴会のようになっていた。予想外の歓待にあたしも相方も少し戸惑い気味に勧められるままご馳走になっていた。
そうこうしている間にいつしか日が傾き、遮るものが何もなく見上げれば空しかないピーリングストーンは夕日に真っ赤に染まる。僅かに漂う雲に陰影が付き一層神々しい。
「うわぁ・・・」
あたしは絶句した。こんな見事な夕日は見たことがない。
遠くの山陰に夕日が差し掛かると後は驚くほどのスピードで陽が沈んでいく。あたしはちょっと感動しながらそれを眺めていた。そんなこととはお構いなしに宴会は続いている。
沈む太陽の最後の欠片が山陰に沈もうという時、突然甲高く悲痛な叫び声が子供の遊び場となっている谷の方から響いた。騒がしかった宴会の場が瞬時に静まり返る。
若い男性を中心に、男たちは弾かれた様に立ち上がるとすぐさまに武器を引っ掴み駆け出した。あたし達も武器を手に取りそれに続いた。
螺旋になったスロープを駆け下りながら谷間を覗くと谷底の平地に巨大な何かと逃げ惑う子供達が見える。メ族の戦士と共にスロープを下り切ると、数人の子供たちが泣きながら駆け寄ってきて必死に何かを指さす。その指さした先にはぐったりしたミコッテの子供を嘴に加えた巨大な怪鳥が立っていた。
「大きい・・・」
足先から頭のてっぺんまで10mはくだらない。見た目は巨大で肉付きの良いダチョウをイメージすれば近いだろうか。長い脚の上に大きな胴体が乗っていて、そこからさらに伸びる長い首の先に頭が乗っかっている。翼は不格好な程細くて頼りない。10数名のメ族の若い戦士たちが槍を構えて取り囲み、時計回りに回りながら輪を窄めるようににじり寄りる。
怪鳥は子供を咥えたまま自分を取り囲むメ族の戦士たちを一瞥すると、徐に屈むように膝を曲げた。
「逃げる気だぞ!逃がすな!」
メ族の戦士のリーダーが叫び、それを合図にメ族の戦士が槍を突き出して一斉に飛び掛かった。
その瞬間、爆発するような音と共に砂煙が巻き起こり視界を奪った。あたしは両手で目の前の埃を払って目を凝らしたがそこにもう怪鳥の姿はない。どこに?反射的に上を見上げた。
「えっ・・・」
あたしは驚嘆して声が漏れた。地面を蹴り、飛び上がった怪鳥は巨大な体が小さく見えるほど空高く飛び上がっていた。
「嘘でしょ・・・」
相方が消え入りそうな声で呟いたのが聞こえた。
空を飛べない巨大な怪鳥は切り立っていて登るにも苦労するような岩山を軽々と飛び越えて姿を消した。